「いいですけど」


「七海ちゃんってさ。Loveteenの専属モデルをしてた樋口七海だよね?」


「…えっ! あたしのこと、知ってたんですね」


ちょっと意外だった。


「まぁな。母親は樋口静海さんだろ? 『黒いクリスタルの薔薇』。中坊の時、主演の静海さんが好きで毎週見てたよ」


さらにカイトさんは「静海さんがこいつ人間じゃねぇのかってくらい冷酷な女医の役で患者の家族とバトルしてさ。それがまた最高にクールで…」とドラマの話を始めた。


「……あの、それで聞きたいことってなんですか?」


話を遮ると、カイトさんは「あっ、わりぃ、脱線した」と言い、


「一ヶ月くらい前、七海ちゃん、モデルを引退したよな。何か理由があったのかと思ってさ」


とあたしに問いかけた。


「それは…………」


あたしは声を詰まらせた。


「……答えずらかったらいいんだ。ただの好奇心だし」


あたしに気を遣ったのか、カイトさんはそれ以上、聞こうとしなかった。けれど、あたしは静かに口を開いた。


「……なんというか……前よりも自分のことが嫌いになったんです。これ以上、カメラで自分の姿を残したくなくなって…」


そう言い、あたしはうつむいた。鬱々しく、暗い感情が胸の奥に広がる。


「……それは、どうして?」


カイトさんが言う。


「……詳しくはちょっと。……ただ一言で言えば、あたしはもう、誰にも必要とされてないんじゃないかって、思ってしまったんです…」


絞り出すように言うと、瞳から、どうしようもなく涙が溢れてきた。