「それで何か分かるかもしれないでしょ? 憑霊のこと…」


さらに由梨が声をかける。


「……でもお母さん、撮影で家にいないし」


少し振り返り、あたしは答えた。


「電話とかできないんすか?」


英美が言うと、あたしは首を横にふった。


「仕事で遠出してるときは、あたしからの電話には絶対に出ないの…」


「だったら明日、直接会いに行きましょうよ」


由梨の提案に、あたしは唇を噛んだ。


「でも……」


「会いに行くべきよ。七海」


強い口調で由梨が言った。由梨は鋭い視線をあたしにぶつける。由梨と睨み合うと、あたしはまた目を逸らして前を向いた。


「無理だよ……それに会ったとしても、お母さんはきっと私の話なんか聞いてくれない…」


そう言い、あたしはおでこの傷に触れた。


あたしの頭に浮かんだのは、傷を負って目を覚ましたあの日、病院であたしを置いて出ていってしまったお母さんの後ろ姿だった。


そうだよ。いつだってそうだ。……お母さんはあたしのことなんか見てくれないんだ。あたしは分かってる。その理由を。じゃあなんでまた、無駄な期待をしなきゃいけないんだ。


「お母さんは、娘となんか思ってないんだよ。あたしのこと。だからあたしがどうなろうが、あの人は何とも思わないよ…」


深く失望した声で、あたしが言った。短い沈黙の後、由梨は後ろからあたしの肩に手を置いた。


「……本当にそうなの? 七海の方が、いつも静海さんから逃げてるだけじゃないの…?」