「どうして彼はここで働いているんですか？」

　マスターに質問すると微笑んだマスターが教えてくれた。

「学生の頃からバイトしててそのまま…ですかね。」

「学生の頃からかぁ。」

　そっか。それでそのまま。

「彼はもうここで働きたくないでしょうけど、勝手に私に借りがあると思っているみたいでして。」

　思ってもみなかったマスターの考えにグラスを持とうとした手を止めた。

「借り………。」

「多分、今日お嬢さんのお相手をしてることさえも借りだと感じるような男ですからね。」

　クスクス笑うマスターは茶目っ気たっぷりに付け加えて言った。

「あぁ見えて義理堅いんですよ。」

「義理……堅いですか。」

　そういうのはよく分からないや。
　まだ彼のことよく知らない。

「お店は彼がいると女性客が増えるのでありがたいです。
　本人はそうとは思っていないみたいですがね。」

　罪な男なんだなぁ。
　やっぱり……悪い男だ。