「ごゆっくり」と離れていくマスターを恨めしく思っていると女が質問をして来た。

「あの……下僕って何をするんでしょう。」

　女の質問に目を丸くする。
　下僕になることは了承している言い方にククッと笑いがこぼれた。

「そうだな。毎日の送迎か？
　それとも身の回りの世話か？」

　グラスを見つめていた女が不意に顔を上げてギクリとする。

「馬鹿。こっち見んな。」

　帽子ごと頭を押さえてぐるりと向きを変えさせた。

　あの潤んだ瞳で見られるなんて……とにかくごめんだ。

「どうしてダメなんですか？」

「どうしても、だ。」

　こんなチビの視線に緊張するなんて死んでも言うもんか。

　………いや、違う。
　緊張なんかするわけないだろ。

　自分自身に浮かんだ気持ちを誤魔化すように酒を煽った。

「そういえばお前、名前は。」

　何気なく聞いた名前に今まで以上に愕然として言葉を失うこととなった。

「莉緒です。」

『りお』と名乗った女は忠告を無視してこちらを見上げ、潤んだ瞳と目が合った。
　色んな感情が綯交ぜになって心臓が壊れそうなほど音を立てて軋んだ。