「わざと拗ねたフリですか？」

「………拗ねてない。」

「………拗ねてました。」

「じゃ拗ねてたんだろうよ。」

「ふふっ。なんですか？それ。」

　長い前髪がサラサラとこぼれて彼の目元を隠してしまう。

　背筋を伸ばしてその髪を持ち上げると触れたくなって思わずまぶたにキスをした。
　片目を閉じて「ん？」と声を出した伶央さんが可愛らしい。

「自分からは平気なのな。」

　不平を感じる声を聞いて「それは……」と口ごもった。

「一緒にいるのに１人掛けソファに座るなよ。」

　う……。

「なんだか、最近の伶央さんは距離が近いし雰囲気があまあまで緊張するんです。
　私、恋愛初心者ですよ？」

　ため息を吐いた伶央さんはボソボソと何か不満を口にした。

「………マスターには平気で近づくのにな。」

「え？」

　バツが悪そうに顔を背けても近い距離ではあまり意味のない行為だ。
　口元を手で覆った伶央さんが似つかわしくないことを言った。

「俺はもっと莉緒とイチャつきたいんだよ。」