戯れ合う二人に笑みをこぼして私は目の前のグラスに口をつけた。

「……美味しい。」

 私の一言に戯れ合っていた二人がピタリと止まって、哲哉さんは私の隣で頬づえをついた。
 そして思わぬことを口にする。

「そうでしょ?
 俺、伶央はさ、マスターの次にいいバーテンだと思うのに一人のためだけにしか、もう作らないって。」

「一人の……ため?」

 言葉の真意を確かめたくて伶央さんの方を見ると顔を背けられた。
 伸ばされた手は頭をつかんでグルリと回転させられる。

「馬鹿。こっち見んな。」

 嘘……。本当に?

 僅かに見えた顔は居心地が悪そうな不機嫌な顔で……。

「専属のバーテンダーとは贅沢この上ないですね。
 この職業をしていますと、どうしてもお相手の方とすれ違いの生活になってしまいますので。」

 再び話に加わったマスターが哲哉さんと同意見の言葉を発した。

 本当……なのかな。

「莉緒ちゃんが飲みたいって言えばBar Crazyで作ってくれるって。カクテル。」

 ニッシシッと笑う哲哉さんを伶央さんは咎めたりしなかった。
 それどころか、まるで哲哉さんとマスターの言葉を肯定するようなことを言った。

「ま、家で作るよりはここの方が雰囲気も出るし、材料も揃ってる。」

 優しい微笑みを向けられて目眩がしそうだ。