「助けて頂いてありがとうございました。
　もう平気です。帰りますね。」

「しかし………。そうですか。
　けれど、男というものは頼られたい生き物だということを頭の片隅にでも置いておいてくださいね。」

　マスターはいつも優しい。
　無理強いはしないし、温かく見守ってくれる。

　もう一度マスターに頭を下げるとアパートまで走った。

　アパートに帰ると真っ先に洗面所へ行って顔を洗う。
　何度も何度も何度も。

　唇が切れて血の味がしてもこすって感触が消えるように何度も、何度も。

　自分のせいだって分かってる。
　ハッキリしない態度で……。

　涙が勝手にこぼれた。

　本当は伶央さんに会いたかった。
　でもどんな顔をして会えばいいのか分からなかった。

　部屋に戻ってぼんやりと座っていても涙が流れ続けた。
　視界にカバンが入ってそれを手にした。

　カバンの中から携帯を取り出す。
　今日はまだハス様にメッセージを送っていない。

　何を送るというのか………。
　ため息を吐くとマスターの「男というのは頼られたい生き物」というセリフが頭を巡った。

　辛い気持ちは一人で抱え切れなくて何よりハス様に聞いて欲しかった。
　いつもみたいに心の内をメッセージに書き込んだ。

　それを伶央さんが見ることはもう考えたくなかった。