「あの頃は仕事の部署も変わって、抱えるものも多くなって精神的にも体力的にも大変だったから、このままだと伊織のことを大切にできないんじゃないかって、自信がなくなって別れることを勝手に決めたんだ」
「………」
「本当に自分勝手だったと思ってる。でも、伊織のことを忘れられなくて何度も連絡しようとした。でも、俺にそんな資格ないって……」
……なに、言ってるの?
全然状況が理解できなくて、私は声も出せずにいる。
「さっき彼氏出来た?なんて、余裕がある感じて聞いたけど、本当は内心ドキドキしてた」
辰己さんの射るような瞳に、私はさらに動揺する。
大人だと思っていた辰己さん。
私のことなんて忘れて、きっと新しい人生を歩いているだろうと。
私とのことなんて過去のものにして思い出すこともないだろうと思ってた。
なのに、私と別れたことを後悔してる?
連絡しようと思ってた?
私に別れようと言ったのは、好きな人が出来たからじゃなかったの?
自分の中で勝手に決めつけていたことが崩れていく。
「もう一回、考えてくれない?俺とのこと」
辰己さんはそう言ってテーブルの上にあった私の手を掬い上げるようにして握った。



