この恋は少しずつしか進まない




「ほら、高校に入ると同時にお姉さんとふたり暮らしになったでしょ?色々と物騒な事件も多いから大丈夫かなって。夜ひとりで出歩いたりしてない?」


――『夜道は危ないから付いてきただけですよ』

その言葉に加島のことが思い浮かんだ。


学校の後輩と一緒に住んでいるなんて、伝えたら辰己さんはどんな反応をするだろう。

きっと、きっと『それなら安心だね』なんて、笑って言えてしまうぐらい、彼の心に私はいない。


「心配しなくても私は平気ですよ」

いい加減、私も吹っ切らなくちゃ。これは神様の意地悪じゃなくてチャンスなのかもしれない。


ウジウジと彼のことを引きずっていた私に、諦めさせるきっかけをくれたのだと思えば、やっと冷静になることができた。


早くスーパーに寄って、家に帰ろう。

お腹を空かせた加島が帰ってくる前に。



「その言い方、ちょっと寂しいな」

「え……?」

何故か辰己さんが切なそうに眉を下げていた。



「こんなこと今さら言っても仕方ないって思ってるんだけど、俺、伊織と別れたことを後悔してた」


静まったはずの心臓が再び跳ねる。