向かったのは駅前の雑居ビルの地下にあるレトロな喫茶店だった。
店内には煎りたてコーヒーのいい香りが漂っていて、ボルドー色のソファーが大人の雰囲気を醸(かも)し出していた。
「お腹すいてない?好きなもの頼んでいいよ」
制服の私では浮いてしまうぐらいのお洒落なお店はもちろん辰己さんが決めた。
借りてきた猫のように小さくなる私とは違い、辰己さんはメニューを手に取る動作をスマートで、もしかしたら何回は利用したことがあるお店なのかもしれない。
「伊織が好きなプリンもあるよ」
私の好きなものを覚えていてくれたことと、伊織と名前を呼ばれるたびに胸がぎゅっとする。
「……私はアイスティーだけで」
「そう?食べたくなったらいつでも言ってね」
……辰己さん、全然変わってない。
こうして私の意見を聞いてくれるところも気を遣ってくれることも、店員さんを呼んで注文してくれるのも、付き合ってた頃から全部辰己さんがしてくれた。
「アイスティーとホットコーヒーですね。ミルクやお砂糖、ガムシロップなどはお付けしますか?」
店員さんの言葉に辰己さんは「大丈夫です」と答えて、私も続けるように同じことを言った。
……私も、全然変わってないや。
本当はアイスティーだってガムシロップを全部入れて甘くするのが好きなのに、辰己さんと一緒にいる時はそれさえも子供っぽく思われるんじゃないかと気にして入れられなかった。
もう、辰己さんとは付き合ってないんだし、よく見せる必要もないのに……。
やっぱり私は今でも辰己さんの前では子供だと思われたくないんだと思う。



