私はアパートの階段を急いで駆けおりる。そして、スタスタと歩いていた加島を追いかけるようにして走った。
「待って!」
私は勢いのまま加島の背中に抱きついた。
「なにしてんすか。本当に頭がおかしくなったんですか」
加島の足がピタリと止まる。
加島の背中は腕が回らないほど大きかった。子供みたいにしがみつく私を加島は拒否することもなく、手も振り払ったりはしなかった。
「また嫌いな虫でも出ましたか?」
「違う」
「じゃあ、なんですか。言ってください」
「行かないで、加島」
小さな声で言うと、加島は私の手を持ったまま体勢を変えるようにして振り向いた。
「俺の心臓の音が聞こえますか?」
加島は私の手を自分の胸に当てていた。
ドクンドクンと手から加島の鼓動が伝わってくる。それは今の私と同じで、ドキドキしてる音だった。



