あれはたしか、加島がうちに来て初めての夜。
腕捲りする時にボタンを外す仕草やネクタイを肩にかけてなにかの作業してる姿。くわえタバコの煙で目を細めてる顔など、そういう人がたまらなく好きだと、私は熱く加島に言った。
――『なんかそれって好みよりも人物特定されてません?』
あの時は誤魔化してしまったけれど、加島の言うとおり、私は辰巳さんのことを思い浮かべていた。
だから私は辰巳さんといると、ソワソワしてしまう。
付き合ってた時のこと、恋をしていたことを思い出して、泣きそうになる。
それから私たちは映画を見て、辰巳さんの行きつけだというお店で食事をすることになった。
「本当は夜景が見える場所に連れていきたかったんだけどね」
「すみません。私、制服だから……」
「なんで伊織が謝るの?急に誘ったのは俺なんだから」
辰巳さんは美味しいお店をたくさん知っている。こういう家族連れが多い定食屋からフォークとナイフが置かれているようなレストランまで。
辰巳さんといると、自分まで大人になれたような気がしていた。
16歳の思い出は全部辰巳さんで埋まっている。
私たちは食事をしながら、会わなかった一年間の出来事をそれぞれのペースで話した。
笑うと目尻が下がる辰巳さんは、やっぱり私が好きだった頃のままだった。



