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「すみません。遅くなりました」
駅のロータリーにはタクシーを含む数台の車が停車していたけれど、辰巳さんの車は遠目からでもよく分かった。
「ううん。平気だよ。どうぞ」
辰巳さんはわざわざ運転席から車を降りて、助手席のドアを開けてくれた。
こういうスマートな気遣いも付き合ってた時はいちいちキュンとしてた。
辰巳さんの車は、昔と変わらないホワイトムスクの香りがした。
優しくて甘くて、クラクラするほどの大人の匂い。
デートの日は家に帰ったあとでも洋服にこの匂いが付いていて、次に会える時まで寂しくないようにと洗わずにいたこともあった。
……本当にあの頃の私は辰巳さんのことで頭がいっぱいだった。
だからこそ、別れてからもなかなか立ち直ることができなかったんだと思う。
「ごめん。一本だけ吸うね」
辰巳さんは窓を開けて、タバコを口にくわえた。
その姿を横目で見ながら、私は以前、加島と好みのタイプについて話したことを思い出していた。



