「なんかすごいお爺さんだったな」


 サボテン爺さんの家を離れてから俺がぼそりと呟くと、隣で俺の手を繋いでいた兜は「普通だよ」と答えてくれた。

 その時、葉羽は俺たちの後ろを、サボテンを抱えて歩いていたはずだった。

 そう思って、葉羽に話しかけようと後ろを見ると、葉羽の姿が見えなかった。


「あれ? 葉羽がいない」


 立ち止まってキョロキョロして、今来た道を戻ろうとすると兜が叫んだ。


「あ、お姉ちゃん、あんなところにいる。ずるい、近道知ってたんなら教えてくれればいいのに」


 葉羽はその先の角の向こうから姿を出し、俺たちよりも数十メートルほど前を歩いていた。


「いつの間にあんなところに」


 俺と兜は走って葉羽に追いつくと、葉羽は疲れたような顔をしていた。

 あれだけサボテン爺さんの家で意味もなくはしゃいでいたら、疲れもでてくるだろう。

 弟子として師匠を立てなければならない気苦労さがあるのかもしれない。

 俺が半分気の毒そうに、半分呆れた顔をしていると、葉羽は無言でじっと俺の顔を見つめた。


「な、なんだよ」


「えっ、その、あの、なんでもない」


 葉羽はサボテンの鉢植えを胸に抱え込んで早足で歩き出した。


「お姉ちゃん、待ってよ」


 その後を兜がついていくから、俺も仕方なく早歩きで後を追った。

 家に帰れば、伯母の車が車庫に入っていた。

 買い物から帰ってきたらしい。


 俺はお互いの家を挟んだ道の真ん中で、葉羽と兜にとりあえず即席にとってつけたような、ありがとうを口にした。