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この命というものは、本来はいらないもので。
 

だから、生きて来られたの。
 

トクトク……静かな音……波の音? 樹を渡る風? ……何だかとても、大きな自然のような音が耳に届く。


私は、朝、目が覚めるように瞼をあげた。


「ん、起きたか?」
 

誰かがいた。真上から声がする。その後ろに銀の月を背負っている。


焦点の合わない視界のせいか、光が、翼のように散漫している。


「……てんし……?」


「あ? 何寝惚けてんだ。俺がそんなもんに見えるか?」
 

見えるよ。
 

とっても綺麗ね、あなたは……。


「悪いけど、俺は鬼だ」
 

そう言って薄く開いた口元からこぼれる――鋭利な、牙。


あ―――