昨日は更に食事の日だったので、飲まされた不味い血の残り香を振り切るように月夜を歩いていた。


どこでもないところへ行きたいと。


――ああそうだ。


一度は母の育った家を見てみたい、とか、そんな益体もないことを考えながら。


そんなことで時間を潰していたら、香って来た。


たぶん、人生で初めて自分から探したもの。


月の香りの、少女。


……あの夜は、はっきり言って不可解だ。


真紅は実際、死にかけていた。


真紅は深く考えていないようだったが――前後の状況が異常だ。


真紅は襲われた瞬間のことは憶えていないのか、見ず知らずの俺に対しても、恐怖していなかった。


警戒はされていたが、それは自分のアホな言動の所為かと思う。


自分、吸血鬼とか普通に聞いたらまともではないことを初っ端から名乗っているし。


人間の世界で考えれば、通り魔だが……。