「黎、何してんの」


呆れた声をかけられ、意識は覚醒した。


「え、……ああ」


そこは院長秘書室の一角。


俺を《監視している》人物の息子がこの病院の院長を務めていて、俺は更に家にいる以外の時間も目のつくところに――ということで、病院で働かされていた。


大学に通い、時間が空けば病院にいる。


仕事は院長の補佐、そして心療医見習い。


血に触れることは赦されないので、けれど耐性をつけろとか意味のわからない理論を持ち出され、心療医を目指す身になっていた。


俺自身、望んだ自分がなかったから将来をどう決められようと構わない。


――はずだった。昨日までは。


「仕事遅いと怒鳴られるよ」


傍らに立つ長身の人物は、俺が「じじい」と呼ぶ人の孫。


小埜澪(おの みお)。


怜悧(れいり)な声で言い置き離れていこうとしたが――


「……黎?」