甦って来た記憶の中に、月の色をした女性の口が、そう動いていた。
私の唇も同じように動く。
それを聞いた白ちゃんははっと息を呑み、黒藤さんは片目をすがめた。
私は片手を、黎の方へ伸ばす。この言葉は、あなたのため。
「かの、ものより、きしょうをとりはらいたまえ」
思考より先に口をついて出る音の意味を、遅れて頭が理解する。
どこかで聞いたような言葉。身体の奥底で紡いだことのある言霊。
謹製し奉る
彼の者より鬼性を取り祓い給へ
「急々如律令――」
きゅうきゅうじょりつりょう――今すぐそうせよという、意味の言霊。
私の言霊は、空気を一変させた。
漂っていた鬼性――黎から掃き出された妖力の残滓が、ことごとく浄化されていく。
そして黎は私を抱き寄せて深く息を吐いた。
その吐息が、最後だった。



