「……姉君様から見てもそういう母でしたか……」
黒藤さんは糸目になってむずむずするような顔をしている。
私の生まれに合わせて眠ったと言うのなら、黒藤さんがお母さんと過ごせたのはほんの一年ほどだ。
「影小路が嫌いって……後継にならないっていう選択肢はなかったの?」
私が疑問を口にすれば、黒藤さんは表情を変えないで答えた。
「あったには、あった。だが、母上は無涯を連れて来て、なおかつ家にいさせたいがために取引条件を出して当主になったと聞く」
また出た。『むがい』。ママは知っているようだけど、私は知らない名だ。
「……何回かその、むがいって名前を聞いたけど……」