……人間(ひと)のさだめの、なんと憐(あわ)れなことか。 長い年月を生きる妖異が、主と共に生きるのはほんの瞬(またた)きほど。 何人もの主を持ったものもいる。一人にさえ仕えない妖異もある。 黒の若君は、涙雨が初めて主とした人間だ。 涙雨は時空の妖異。その翼で駆け抜ける。黒の若君のもとにいる、今は羽休めの時間だ。 ほんの瞬き、人に寄ってみようと思ったのだ。そして黒の若君はそう思わせるだけの存在だった。 黒の若君の式に下って、涙雨は面白い毎日しかない。