「紅緒様は、真紅を術師として育てるおつもりなんだろう? なら、真紅は誕生日を迎えても死なないってことだ」
俺の楽観的な言葉に、黒は否(いな)を唱えた。
「それは母上の希望的観測に過ぎない。……真紅の力を封じることは、無涯が亡いなって大分弱っておられたときの決断でもある」
「………」
苦い顔をする黒を、横目に見た。
永遠の恋人を失くした紅緒様。家のことが嫌いな、小路流の先代当主。
「お前の」
俺の落ち着いた声に、黒が顔をあげた。
「お前の母君は、お強い方だ。小路を護り、鬼神(きしん)を婿とされたほどに、な」
「………」
黒は表情を変えない。
それは、俺以外が口にすれば簡単に暴発する、黒の地雷だ。
――黒の父もまた、人間(ひと)ではない。



