私は逃げようとしなかった。
逃げても、四方八方を囲まれていると気づいていた。
何も視えていないはずだ。
今までおばけや幽霊なんて見たことはなくて、黒藤さんも、私は見鬼の力ですら封じられていると言っていた。
たぶん、視えていたことに、あの夜と同じ夕陽を見て、気づいたのかもしれない。
けれど、黎と帰っているときは何も視えなかった。その理由はわからないけど……。
私の身のうちから、あふれるものがある。
今まで閉じ込められていたモノ。
無理に鍵をかけていたから、飛び出そうと暴れている。
身に添わない、大きすぎる力。
なにがきっかけ? それとも、リミットが迫っているから?
黎。
……逢えてももう、謝れもしないかもしれない。



