「あの、そうしたら今から向かってもいいですか?」

「えぇ、いいわよ。裏門が開いてるから、そこから入って、新校舎の玄関まで来て。玄関まで来たら、職員呼び出しのベルを鳴らしてくれる?」

「わかりました。ありがとうございます」

「それじゃあ、またあとでね」

「はい」


相手が電話を切ったのを確認してから、私は手に持っていた受話器を置いた。




「取り壊し……」




改めて言葉にしてみると、言いようのない感情の波が胸に押し寄せてきた。


電話機の脇に置かれたカレンダーに視線を動かす。


今日は7月22日の月曜日。旧校舎の解体作業が始まるのは来週の水曜日。


九日後には、私とみんなを繋ぐ唯一の場所がなくなってしまう。




跡形もなく、


なくってしまう。




心の中を激しい嵐が吹き荒れた。


ここまで何かに対して強い感情が込み上げてきたのは、ずいぶん久しぶりだった。


居ても立ってもいられなくなり、私はよれよれのTシャツにショートパンツという格好のまま、スマホだけ持って玄関を飛び出した。