「今度、街に連れて行ってやる」

「本当!?」

 立って自分を見下ろすスヴェンとの距離を縮めるように、勢い余ってライラも立ち上がりにじり寄る。

「ルディガーとセシリアが行く予定があるらしい。お前のことを話しておいた。ついでに連れて行ってもらえ」

「……スヴェンは、一緒じゃないの?」

「俺は別件で忙しい」

 膨らんでいた気持ちが、急速に萎んだ。それを慌てて気持ちを切り替える。

 街に連れて行ってもらえるだけでも喜ぶべきなのに、当然のようにスヴェンと行くつもりだった自分にライラは恥ずかしくなった。

 ふと、しょげているライラをなだめるかのように頭に大きな手が置かれる。

「また今度、時間を作ってやる」

「……うん」

 心地いい重みを感じながらライラは素直に頷いた。そのとき顔の横から落ちるライラの髪をスヴェンが指先ですくいあげそっと耳にかけてやる。

 驚きで顔を上げようとするのと、唇が重ねられたのはほぼ同時だった。

「っな、なん」

 不意打ちの口づけに狼狽えるライラにスヴェンは呆れた面持ちだ。

「お前は本当に鈍いな」

「アードラーのスヴェンにしてみれば、たいていの人間は鈍いでしょ!」

「そうかもな」

 すかさず返したライラの言葉に、スヴェンはふっと気の抜けた笑みを浮かべた。仄暗い部屋の中でもその表情はライラの目に焼き付く。