冷徹騎士団長は新妻への独占欲を隠せない

「そこまで嫌がらなくてもいいだろ」

「い、嫌がってるわけじゃ……」

「なら、なんだ?」

「なにって」

 そこでライラはおそるおそる顔を上げた。腰を屈めてはいるが、自分より高い位置にいるスヴェンの顔は不機嫌そうだった。

「あの男には自分から触れておいて?」

 持ちだされた話題にライラは目を瞬かせる。すぐになんのことか理解できなかったが、厩舎前でエリオットに抱きついたことを思い出した。

「あ、あれは……。エリオットは私にとっては家族みたいなもので」

 そもそも触れ方が全然違う。あたふたと言い訳すると、スヴェンはライラに顔を近づけ皮肉めいた笑顔を向ける。

「家族、ね。なら、俺たちはなんだ?」

 体勢や状況も相まってライラには、どう答えるべきなのか判断がつかない。混乱しているライラの頤になにげなくスヴェンが手をかける。

 強引に上を向かされると、相手の瞳に映る自分の姿が確認できそうなほどの距離でふたりの視線は交わった。

「……夫婦だろ」

 確認するように強く言いきられ、ライラはしばらくスヴェンの顔を見つめたままでいた。

「そ、そうだね」

 ややあって弱々しく同意する。それからライラにとっては予想もしていないことが起こった。

 スヴェンの整った顔がさらに近づき、唇が重ねられる。目を閉じることもできず、逆にライラは大きく目を見開いたまま硬直した。

 すぐに唇は離れたが、ライラの頭は働かない。されたことも感触も、実感が湧かない。