冷徹騎士団長は新妻への独占欲を隠せない

「なにをする気だ?」

 女は答えず、ただ揺れない瞳がスヴェンをじっと捕えていた。彼女の意図は読めないが、どうしてか無視することもできない。

 ただ問答を繰り返す時間も惜しく思えた。

「……おかしな真似をするなよ」

「わかています」

 女の返事に嘘はないことを悟り、スヴェンはセシリアに視線を送る。セシリアは躊躇いがちに懐に忍ばせていた短剣を彼女に差し出した。

「ありがとうございます」

 女は小さく礼を言って受け取ると、鞘から剣を抜いて確かめるように磨かれた刃を見る。そして次に彼女が起こした行動に、その場の誰もが目を奪われた。

 女は自分の右側の髪を適当にひと房掴むと、そこにナイフを当て乱暴に滑らせたのだ。

 ザッザッと擦れるような音と共に彼女の手には美しい絹のような髪の髪が握られる。それを持ち、女はファーガンの元に腰を落とした。

「どうかあなたに満つる月のご加護があることを」

 ファーガンは髪を受け取ると、ついに涙を流し始めた。嗚咽混じりのすがるような声は気位の高い貴族のものとは思えない。

「フューリエン。頼む、行かないでくれ。あんたが私の最後の希望なんだ」

「ごめん、なさい。私はなにもできないんです」

 苦しげに頭を沈める女をスヴェンが強引に立たせる。

「彼女は連れて行く。ほかの件に関しては今回は追究を免除してやろう。どうしても異議があるならこの件に関しては城まで直接申し立てに来い」

 ファーガンは顔を上げることはしなかった。彼を尻目に一行は館を出ていき、馬を留めている場所へ戻る。