冷徹騎士団長は新妻への独占欲を隠せない

「なんだ?」

「いえ、なんでもありませんよ」

 マーシャの顔はいつも通り涼しいものになる。けれど、どこか嬉しそうにしているのが伝わってきた。そしてマーシャの眼球がわずかに動く。

「スヴェン!」

 その視線の先を追ったのと、名前を呼ばれたのはほぼ同時だった。視界に声の主を捉える。

 馬に跨ったライラがゆっくりとこちらに近づいてきていた。そばにはエリオットが付き添っている。

「見て見て、スヴェン! どう?」

 格好を差し引いても、手綱を取り背筋をまっすぐ伸ばしたライラの姿は意外と堂々たるもので、高い位置から微笑みながら、得意げな表情を見せてくる。

 しかし、スヴェンは違うことに注意がいった。ライラの乗っている馬に対してだ。

「その馬」

 鹿毛の馬には見覚えがある。たしかライラと一緒にここを訪れたとき、使い物にならないとエリオットから報告を受けた馬だった。

 スヴェンも見たが、どうも人間を受け入れることをせず、下手をすれば暴走しそうな勢いだった。ところが、今はその片鱗をまったく見せることなく従順にライラを乗せている。

「どう? 立派でしょ?」

「乗馬の練習をするなら、もっと適した馬がいただろ」