冷徹騎士団長は新妻への独占欲を隠せない

「気が向いたんだ」

「え?」

「お前に自分のことを話した理由。不満か?」

 固まっていたライラは、泣きだしそうな表情で微笑み、静かにかぶりを振った。

「ううん。……ありがとう、って言ってもいいのかな?」

「好きにしろ」

 ぶっきらぼうに答えて、スヴェンは離れたライラを手繰り寄せるように、今度は自分から彼女に腰に腕を回す。

 どうしてか与えられる温もりが消えたことがものすごく名残惜しく思えた。

 ライラはスヴェンの行動に驚きはしたが、なにも言わない。頭の中では今までのスヴェンの言葉や態度を思い出していた。

『俺にとって満月は忌むべき存在だ。好きじゃない』

『いらないんだよ、俺には。そういう大事にしないとならないものとか、大切な存在は。足枷になるだけだ』

 そうやってスヴェンが自らひとりを選んで進んできたのだと思うとライラの胸は軋んだ。副官をつけない理由も、あまり眠れない原因もすべては今の話に基づくのだと腑に落ちる。

 自分には想像しても足りないほどの修羅場をスヴェンは幾度となく経験してきたのだ。

 この胸の中を渦巻く感情の名前をライラは知らなかった。同情でも共感でもない。水の中にいるわけでもないのに息が苦しくて溺れてしまいそうだ。

 先ほどとは逆で、今はスヴェンからライラに触れている。応えるようにライラはそっとスヴェンの頭に手を伸ばした。

 おもむろに撫でると彼の黒髪が滑り、体温が伝わってくる。その手が振り払われることはなかった。