冷徹騎士団長は新妻への独占欲を隠せない

「泣くわけないだろ。感傷に浸ってもなにも変わらない。いいことも悪いことも全部背負って前に進んでいくしかないんだ」

「うん。でも人間弱くなるときもあるだろうし、それに泣くって涙を流すことだけじゃないでしょ?」

 ライラはぎこちなくスヴェンの頭を撫でながら語りだした。

「私、ね。こんな目だから泣いたらいつも以上に珍しがられたり、からかわれたりしたの。瞳と同じように涙の色も左右で違うんじゃないかって。だから泣くのが怖かった。我慢してた」

 悲しいときやつらいことがあっても、泣きたい気持ちを必死で堪えて自分の中で感情が収まるのを必死に待った。いつのまにかそれが癖になり、ライラは泣くという行為自体ができなくなっていた。

「そんなとき、伯母さんがこうして抱きしめてしてくれてね。私に言うの『こうしたら誰にも見られない』って」

 実際に涙を流すかどうかは別として、そうされるとライラの張りつめた気持ちはわずかに緩み、安心できた。泣けない自分を、泣くことを許された気がした。

 ライラは込み上げてくるものを飲み込むように、唾液を嚥下する。そして無理やり笑ってスヴェンに言い聞かせるように続けた。

「だから私が隠してあげる。大丈夫、こうしていたら誰からも……私からも見えないよ」

 スヴェンは瞳を閉じてそのままの体勢でライラの言葉を受け入れた。もちろん泣く気も気配もない。自分はそこまで単純でもなければ感情的でもない。

 けれど、こんなことは無意味だと切り捨てる真似もしなかった。