冷徹騎士団長は新妻への独占欲を隠せない

「あなた、方は……?」

 女の口から紡がれたのは、鈴を鳴らしたような小さな声だった。スヴェンが歩み寄り、どこかあどけなさの残る彼女との距離を縮める。

「アルノー夜警団だ。国王陛下の命令により、我々と共に来てもらおう」

 女の瞳が揺れ、思索にふけるように押し黙った。そして突然目の前に現れた男に刺さるような視線を送る。

 その姿勢に恐怖や困惑は見られない。ただなにかを訴えかけるような表情だった。

「拒否する選択肢はお前にはないんだ」

 動かない彼女に痺れを切らしスヴェンは刺々しく告げた。その言葉で女は目を伏せ、一歩歩み出す。

 スヴェンとルディガーに連れられ、部屋の外に出ると廊下を灯す明かりに女は目を細めた。階下についたところでセシリアに押さえられていたファーガンが事態を悟り、目を剥いた。

「フューリエン、待ってくれ。どうか行かないでくれ!」

 その場に泣き崩れるように膝を折り、声にならない叫び声をあげる。その振舞いは母親に見捨てられた子どものようだった。

 さすがにルディガーもセシリアも悲痛な男の姿に顔を歪める。無視して先を促すスヴェンに女は声をかけた。

「あのっ、待ってください!」

 彼の足が止まり、女と目が合う。

「なにか、なにか切るものを貸していただけませんか?」

 彼女から続けられた内容は予想外のもので、スヴェンの眉間に自然と皺が刻まれた。