冷徹騎士団長は新妻への独占欲を隠せない

戦場となったのは、先の戦争で捕虜となった人々が暮らす小さな村だった。捕虜だから、自国の人間ではないから、そんな理由でなにも知らない村人たちは戦争に巻き込まれた。

 馬の嘶く声、剣のぶつかる音、土埃が舞い、怒号が飛ぶ。敵か味方か一般人かどうかさえ判断する余裕もない。大人も子どもも、男も女も関係ない、酷い惨状だった。

 ありありと頭に蘇る光景に、スヴェンは頭を下げると大きく息を吐いた。

「月の明るい……満月の夜だった。逃げ惑う村人の中で、親とはぐれて泣いている子どもをかばってセドリックは死んだ。どんなに剣の腕を磨いても人間なんて呆気ない。本当に一瞬の出来事だった」

 スヴェンの声からも口調からも悲痛さはうかがえない。けれど機械的に冷然とした様子が却ってライラの胸を締めつける。

 一拍間を空けてから、ゆるやかにスヴェンは顔を上げた。

「前国王を責めているわけでも、恨んでいるわけでもない。俺たちの覚悟が足りなかった。セドリックが死んだのもあいつが馬鹿で優しすぎた、それだけだ」

 子どもを助けたにも関わらず、戦いが終わって村人から向けられるのは憎悪の眼差しだけだった。彼の死を悼む者なんていない。

 きっとこんなことはよくある。そう言い聞かせてきた。いちいち感傷に浸っていたら、夜警団としてやっていけない。上は目指せない。

 それでも、ずっと引っかかっている。

 剣を取るのはなにかを守るためだ。それが国なのか、王のためか、家族のためなのか。自分の信念でもプライドでも、なんでもいい、相手も同じだ。譲れないものがあって、そのために命を懸ける。