「あいつ、ライラはなにをしているんだ?」

 スヴェンの質問にマーシャの目尻がわずかに下がる。

「それはご本人に直接聞いてみればよろしいんじゃないですか? ご夫婦なんですから」

 どこか楽しそうなマーシャにスヴェンは眉をひそめる。しかしすぐにマーシャが真面目な顔になり、自分よりもかなり背の高いスヴェンをまっすぐに見つめた。

「スヴェンさま、ライラさまは一生懸命で優しい方です。微力ながら私もおそばにおりますし、あなたがご心配するようなことはなにひとつありませんよ」

 心配というのはどういう意味なのか。そこがまずは気になった。けれど問いただす言葉も見つからない。

 虚を衝かれた顔をするスヴェンにマーシャは素早く頭を下げると、静かにその場を去っていった。

 スヴェンは軽く息を吐いてから自室のドアを開ける。部屋に入ると明かりはさらに頼りなく廊下以上に薄暗い。しかも今日は月も隠れている。外からの光も期待できない。

 とはいえスヴェンにとっては暗闇に目が慣れるのはあっという間で、動くのも周りの状況を掴むのも造作もない。

 わずかに人の気配を感じ、足音を消して近づくと、いつも自分が使っているデュシェーズ・ブリゼにライラが体を横たわらせ、規則正しい寝息を立てているのが目に入った。

 体を丸め、すっぽり収まっている姿はやはり猫に似ているとスヴェンは思う。それにしても、どうしたものか。

 しばし考えを巡らせ、スヴェンはライラを抱き上げた。ゆっくりとベッドまで運び、そっと体を沈めてやる。