ライラとは夜を共に過ごすものの、ここ連日はあまり会話らしい会話を交わしていない。

 スヴェン自身が疲れているのもあるのだが、ライラも寝つきがよくマーシャに連れられスヴェンの部屋を訪れると、すぐにベッドに向かいさっさと眠ってしまう。

 不満もなにも感じない。むしろスヴェンの望んでいた最低限の接触だ。必要なのは護衛という形で夜の間、彼女のそばに誰かが、自分がいればいいだけの話だ。

 なのに、どうしてかスヴェンはすっきりしない気持ちで部屋に向かった。ルディガーが余計なことを言ってきたからだろうか。

 原因もはっきりせずに、喉に小骨が引っかかったような不快感が消えない。

 歩みを進めていると、部屋の前には見慣れた人物が立っていた。近づくにつれ、灯された蝋燭の明かりで輪郭が浮かび上がる。

「おかえりなさいませ、スヴェンさま」

 そこにいたのはライラの世話係をしているマーシャだった。皺ひとつない服装とまっすぐな背筋は彼女の気質をよく表している。

「すみません、ライラさまがお疲れのようでしたので、先にお部屋にお連れしたんです」

「かまわない。マーシャももう休め」

 軽く労うと、マーシャは深々と頭を下げた。

「では、私はこれにて失礼いたします」

「マーシャ」

 踵を返そうとしたマーシャをスヴェンが呼び止める。表情ひとつ変えずに自分を見遣る彼女に、スヴェンは一瞬だけ迷いを生じさせたが、素直に疑問を口にした。