「話は変わるが、この変死体の件はどういうことなんだ?」

 そこでスヴェンが目を通していた書類について尋ねた。ルディガーはさらに身を寄せ、中身をちらっと確認してから動じることなく答える。

「ああ。ドゥンケルの森の入口辺りで若い貴族の娘の遺体が発見されたんだ。首筋に大きく噛まれたような跡があって、死因はおそらく失血死。獣にでも襲われたんだろうという結論で片付いたんだが……」

「あんな森へなにをしに?」

 すかさず返したスヴェンにルディガーは複雑な表情を見せる。哀悼の意を示してか静かに目線を落とした。

「……恋人と逢瀬を重ねる予定だったらしい。彼女は親に決められた婚約者がいたが、別に好き合った相手がいたと聞いている」

「その男との待ち合わせが、ドゥンケルの森だったというわけか」

「あそこは人目に付きにくいからな。気の毒なことだ……なにか気になるのか?」

 報告書から目を離さないスヴェンにルディガーが尋ねる。スヴェンは軽くかぶりを振った。

「いや。ただ同じようなことが再び起きれば、ある程度動く必要があるかと」

「その心配はない。もう何人か警備に回してある」

「そうか」

 そもそもルディガーはこう見えて頭が切れる男だ。なにより彼にはセシリアもついている。

 決められた婚約者がいながらも、別の好いた相手がいたというわけか。

 だから、なんだというのだ。スヴェンは頭を切り替え、次の報告書に手を伸ばした。