「申し訳ありません、俺がもう少し時間を費やしてやればいいのかもしれませんが、あの一頭だけに、なかなかそういうわけにもいかず……」

 スヴェンと会話する青年をライラはじっと見つめた。赤味がかった癖のある髪に、左にある泣きぼくろ。ライラは記憶の中を辿っていく。

「エリオット?」

 疑問系で名前を呼んだが正解だったらしく、青年は驚いた面持ちでライラに顔を向けた。改めて、この場に他の人物がいたと気づいた様子だ。

 ライラを見て、すぐには思い浮かばなかったが、左目を長い前髪で隠している姿には見覚えがあった。

「ライラ!?」

 青年から驚いた声があがる。互いに距離を縮めて確認するように見つめ合い、思わず手を取り合ってしまう。

「エリオット、あなた城仕えをしてたの?」

 再会を喜んでライラは声を弾ませ尋ねた。

「ああ。養子に出た先が馬の調教師をしていてね。それから色々あって今ではここの、アルノー夜警団専属の厩舎で馬の世話をしながら調教師をしているんだ」

 エリオットはライラと同じグナーデンハオスの出だった。ライラとは年も近く、気性の穏やかなエリオットは、ライラに偏見の目を向けることもなく仲良く過ごしていた。

 ちょうど十になるかならない頃、エリオットはある夫婦の養子として迎えられ孤児院を出たから、それ以来になる。