翌朝、厩舎に行く旨をマーシャに告げ、極力動きやすい服装にしてもらう。

 シンプルな赤いドレスはワンピースと呼ぶ方がしっくりくる。飾りはないものの、丈は床につくか、つかないかまである。

 原則、女性は肌を見せない服装をするのが一般的だった。舞踏会や華やかな場ともなれば多少の肌の露出があるものを選ぶが、それはあくまでも非日常だ。

 朝の支度を済ませたところで、スヴェンがライラを迎えに来た。厩舎は城門から歩いてすぐのところにある。外に出るのはやはり気持ちよく、肌に冷たい空気が刺さるが、それさえもライラには新鮮で心地よかった。

 ライラがスヴェンに連れられて訪れたのは、アルノー夜警団専用の馬が管理されている馬房だった。木で作られ、入口には大量の藁が積まれている。

 中に一歩足を踏み入れれば屋根の部分の合間から日光が差し込んでいた。馬の気配はあるが、思ったよりも静かで臭いもあまりしない。

 ここにいるのは乗馬や馬車を引くための馬とは違い、戦馬としての訓練を受けた特別な馬だ。人の言うことをよく聞き、強さや速さなどが求められる。スヴェンがある馬房の前で足を止めた。

 スヴェンの姿を確認すると、ゆっくりと柵から馬が顔を出す。真っ黒な青毛だった。前髪はふさふさとしていているが、たてがみは短めだ。スヴェンが鼻梁をそっと撫でるのをおとなしく受け入れている。