「簡単には許可できない案件だ。そもそもお前は馬に一人で乗れないだろ」

 スヴェンの指摘にライラは言葉に詰まった。

 アルント城から街へ行くためには山を下らなくてはならない。敵襲に備え、生い茂った森に囲まれた城は高い壁を持つ。

 城門を抜け、正規ルートとして整備されている道がひとつあるが、徒歩ではどう考えても厳しい。街に入れば馬も必須というわけではないので、ふもとには馬を留めておく中継地がわざわざ設備されている。

 ライラは馬に乗る技術どころか、乗った経験もなかった。それこそファーガンの家から城へ連れて来られる際、スヴェンと同乗したのが初めてだったりする。

 貴族など身分の高い者は、たしなみとして乗馬を心得ている者も多いが、一般庶民は乗れないのが当たり前だ。

「……乗馬の練習しようか?」

「必要ない。どっちみちひとりじゃ行かせられない」

 そこから、ライラは城の持つ厩舎を見に行きたいと話を振った。スヴェンは面倒くさそうにしながらも、ちょうど用事があるらしく渋々と承諾する。

「連れて行って欲しかったら、早く横になれ」

「はーい」

 途端に機嫌をよくしたライラは素直にベッドに身を沈める。ちらりとスヴェンに目を向けるたが、暗がりだからか、はっきりとした表情は掴めない。

 なのに、呆れつつもどこか穏やかな顔をしているようにライラは感じ取れた。

 勝手に照れてしまい、ライラはふいっと背を向ける形で寝返りを打つ。目を閉じたものの子どもみたいに気持ちが逸り、まだ眠れそうにもない。

 こんなにも、明日を楽しみにできるのはいつぶりなのか。くすぐったくなる気持ちでいると部屋の明かりが一段と落とされた。