すると上手くあしらわれただけなのかもしれない。不確かな約束。それでもライラはひとつ楽しみが出来たみたいで嬉しかった。

 スヴェンの手が離れ、ライラはそっと目線を上げる。スヴェンの顔は、いつも通り無愛想で表情は読めない。けれど、今までとは違う気持ちで相手を見つめた。

 流れるような黒髪と同じ瞳の色を持つ彼は、鷲というより鴉だ。鋭い目つきは冷厳さを伴っていて、委縮するしかなかった。顔立ちが整っている分、気迫も余計に増す。

 けれどスヴェンの態度や雰囲気は、今まで彼が歩んできた人生を物語っているのかもしれない。だから、こんなにも彼の言葉がしっかりと届き、心に沁みる。

 よく見れば手にも、団服から覗く肌にも古い傷跡があり、今まで気づきもしなかった。ライラとはまったく経験してきたものが違う。

 分かり合うのなんて無理だ。でも歩み寄ることはできるかもしれない。それがわずかなものだとしても。

 ベッドに行くよう促され、ライラはソファから立ち上がりベッドに移動する。腰を落とし、ローブに手をかけたところで自分を見張るようにそばに立つスヴェンに声をかけた。

「スヴェンは眠れる? 子守歌は、本当にいいの?」

「しつこいぞ。俺のことはいいからさっさと寝ろ」

「じゃぁ、寝るから今度、町へ行きたい」

「その交換条件は成立しない」

「条件じゃなくて純粋にお願いします」

 間髪を入れないやりとりに一瞬だけ、沈黙が挟まれる。