「遠慮しておく」

 スヴェンの迷いなど微塵も伝わってはおらず、ライラは純粋に残念がる。けれどすぐにその色を顔から消した。

「もし、なにか私にできることはあったら言ってね。聞いて欲しい愚痴とかあればいつもで聞くから。私はこの城の人間ではないし、ゆくゆくはいなくなる存在で……」

 だから気兼ねなく、と続けようとしてライラは言葉を止めた。事実を告げただけなのに、なぜだか針でちくりと刺されたような痛みを覚える。

「気遣いはいらないって言っただろ。それに自分の話をするのは好きじゃない」

 さらに追い打ちをかけてスヴェンは答えた。ライラは一度唾液を嚥下し、もっと素直な部分をさらけ出してみる。

「気遣いというか……そう長くない関係とはいえ、こうして結婚したわけだし。私、あなたのことを少しでもいいから知りたいの」

 調子に乗りすぎた、と声にしてからすぐに後悔する。きっとまた鬱陶しそうな表情と言葉を返されるだけだ。その証拠に、相手が大きく息を吐いたのが伝わってきた。

 視線をおもむろに下げて、スヴェンからの返事を受け止める覚悟をしていると、前触れもなくライラの頭に大きな手の感触があった。

「気が向いたら、話してやる」

 妻に、というより子どもをあやすためのような触れ方だった。触れられたことに、返された台詞に、ライラは心臓を鷲掴みされる。音を立てて加速する鼓動が煩い。

「……うん、待ってる。スヴェンの気が向くの。でも極力早くしてね。聞かないまま結婚生活が終わっちゃうかもしれないから」

 最後は早口に明るく言ってみる。半分本気、半分冗談だった。ああは言ったが、スヴェンがどこまで本気なのかわからない。