「価値がないって誰が決めた?」

「え?」

 唐突なスヴェンの問いかけにライラは目を丸くさせる。

「ないなら作ればいいだろ。フューリエンにしたってアードラーにしたって、他人から与えられる肩書きや評価なんて所詮は一過性で表面上のものだ。絶対じゃない。そんなものに振り回されなくていい」

 部屋は夜の暗さが多くの物の輪郭を歪める。しかしライラはスヴェンの顔も、表情も、瞳の色さえはっきりと見えた。

「他人に揺るがすことはできない確固たるものは、自分で得るしかないんだ。自分で培ったものは誰にも奪われない。少なくとも、俺はそう考えてここまで進んできた」

 ライラはこれでもかというくらい目を見開き、瞬きをすることもなくスヴェンを見つめる。彼の言葉が音としてだけではなく、なにか強い力をもってずっしりと心に響いた。

「……私、作れるかな?」

「さあな」

 スヴェンの返事は素っ気ない。けれどライラの顔には自然と笑みが零れそうになる。温かいものがじんわりと湧き出て胸の奥が熱くなった。

 そして急に真剣みを帯びた表情でライラは『スヴェン』と軽く呼びかける。

「眠れないなら子守歌でも歌おうか? これでも私、孤児院で寝かしつけは一番上手かったから」

 冗談かと思えば、ライラの顔は意外にも大真面目でスヴェンは虚を衝かれる。一瞬返す言葉に迷い、すぐに自分自身に驚いた。今までなら反射的に冷たく切り捨てるだけだったのに。