ライラは返答に困ってしまう。たしかに名前で呼び合うことにはなったが、マーシャが思うよりもスヴェンとライラの関係性に大きな変化はない。

 しかしマーシャは目尻を下げて話を続けた。

「それに、先ほどスヴェンさまと廊下でお会いしたときも『ライラを頼む』とおっしゃっていたので」

 にこにこと内緒話でもするかのように話す姿は楽しそうだ。ところが言い終えてからマーシャの顔が急に真剣めいたものに変わる。

「そういうわけでライラさま、今日はできるだけ部屋の中にいらしてくださいね。城の敷地内でしたら少しは私がお供します」

 ライラは身を引き締めた。しかしマーシャの言葉に甘えて遠慮がちに希望を口にしてみる。

「わかりました。あの……なら中庭にある薬草園は行ってもいいですか? 少しだけでいいんです」

「薬草園です? 」

 意外な答えだったのか、マーシャの声は間抜けなものだった。ライラは力強く頷く。

「はい。気になる薬草やハーブがあったので見に行きたいんです。もしよろしければ、少し持ち帰ってもいいですか?」

「それはかまいませんよ。あそこは今、管理している者がいないので荒れ放題ですが」

 マーシャの許可にライラは自然と笑顔となった。昨日見たいくつかの植物を思い出していると、マーシャに朝食が先だと提案され、慌てて居住まいを正した。