「わっ」

 突然の浮遊感にライラは思わず声をあげた。スヴェンはたいして気にもせず、ライラを抱えたままベッドに近づいていく。

 おかげでライラの視界はころころと変わっていった。そして次の瞬間、ぼすんっという音と共にライラの体が背中からベッドに沈んだ。

 状況に頭がついていかず、スプリングが軋むのを音と体で感じる。さらにスヴェンがライラに覆いかぶさり影を作ったので、部屋の暗さも相まってライラの世界は狭められた。

 夫となった男が、なにをするわけでもなく漆黒の瞳で自分を見下ろしている。ライラはスヴェンから目を離せずにいると、彼の形のいい唇が前触れもなく動いた。

「ライラ」

 発せられた言葉に、ライラは両方の瞳を大きく見開く。スヴェンはさっとライラの上から身を起してベッドから下りた。

「ほら、言う通り名前で呼んでやっただろ。だから、お前もこちらの言うことをおとなしく聞け」

 ライラはなにも言えないまま、暴走する心臓を抑えようと左胸に当たるローブをぎゅっと掴んだ。息が詰まりそうに苦しい。

 こんなのずるい。

 不意打ちもいいところだ。甘さなんて微塵もない。それなのにスヴェンによって唱えられた自分の名前がいつまでも余韻を伴って頭の中でリフレインされる。