夜の世界に覆われた王都は暗闇が支配しつつあった。日中、あんなに暑かったのが嘘のように今は冷涼な空気に覆われ、夏が終わり秋が近づいて来ていることを物語っている。

 街に人の気配がまったくないわけではない。各々の愛馬に跨った三人は大通りを避け、月明かりを頼りに静かに都のはずれにある大きな館を目指す。

 蹄鉄の音が小気味よく響き、スヴェンは目的地を目指す間も胸中で自問自答を繰り返していた。

『ある男の館にひとりの女性が捕らわれているという話だ。彼女を表沙汰にすることなく救出し、ここへ連れて来てほしい』

 アルノー夜警団のトップであるアードラーのスヴェンとルディガーがわざわざ二人揃って呼び出され、国王陛下から直接下された任務内容にスヴェンは正直、拍子抜けした。

 騎士団として派遣されるのか、戦の気配があるのかと思えばなんてことない。

 誘拐事件なら、自分たちの部下でも十分に片付く案件だ。ましてや対峙する相手は軍人でも武人でもない、ただの貴族の男だという。

 捕らわれているのが王家に関係する人間なのか……それならもっと大事になっているはずだ。

 そもそも、いくら金があるとはいえ貴族の人間が王家の人間を誘拐するなどあるだろうか。そんな危険を冒すメリットが見えない。

 考えを巡らせていると、気づけば目的の館近くに来ていた。馬を留め、歩みを進める。

 木材と石造りでできた大きな屋敷は、持ち主の富の豊かさを表していた。