「これを頼む」

「はいはい。きちんと届けて参りますよ」

 面倒くさそうではあるが、断る選択肢など彼女にはない。マーシャは書類にざっと目を通し、一礼すると部屋を後にした。

「城の中を案内する、ついてこい」

 ふたりになった、と意識する間もなくスヴェンに促され、ライラは言われるがまま身ひとつでスヴェンについていく。

 部屋の外に出ると、城の廊下は昨日とは違った印象を与えた。つけられた窓はどれも高い位置にあり、そこから降り注ぐ太陽光を内部で上手く反射させ明るさを保っている。

 磨かれた床は、壁と同様明るい色で外からの光を受けて輝いていた。辺りをきょろきょろ見渡すが、城の広さなどライラには皆目見当がつかない。

 中庭をぐるっと囲むようにして建てられた構造上、王の主な活動場所となる執務室や謁見の間などは城門から最奥に置かれている。ライラの使っている客間は比較的王の部屋の近くにあった。

 他にも使用人たちの居住空間や食堂、大広間などいくつもの用途を目的とした部屋がある。そういった説明をスヴェンが淡々と口にするが、そこには余計な会話も情報も一切ない。

「改めて紹介したい連中がいる」

 やっと話題を振られ、ライラはスヴェンを見る。連れて来られたのはアルノー夜警団、正確にはアードラーに宛がわれた部屋だった。

 木製のドアをノックし、中からの返事を待たずしてスヴェンは扉を開けた。