「今宵は月が綺麗ですね」

 なにげなく話題を振った。月はライラにとっての癒しであり特別な存在だったからだ。

「俺にとっては満月は忌むべき存在だ。好きじゃない」

 ところが、返ってきたのはあまりにもばっさりと切り捨てるような言い草で、ライラの顔が強張る。

「朝、お前の世話をする人間が部屋を訪れる。それまでは部屋からけっして出るな。なにかあればドア越しに声をかけろ。警護の者が対応する」

「……はい」

 用件だけを伝え、部屋を出るスヴェンをライラは静かに見送った。ひとりになりライラは窓際にそっと歩み寄る。気を使わなくても、足音は上質な絨毯にかき消された。

 私、これからどうなるんだろう。

 顔にかかっている髪を手で寄せ、金色の瞳にも月を映す。月を見る度にライラはかすかに記憶の中に残る幼い日の自分、そして伯母のことを思い出す。

『伯母さん、私の目の色変だってみんなが言うの』

 この瞳の色でからかわれるのは何度目か。子どもたちは直接的な言葉で、大人たちは間接的な態度でライラの瞳について畏怖や好奇の目を向けてきた。

 自分が他の人間と違うのは理解できる。でも、自分ではどうにもできない。その葛藤が幼い心に重くのしかかる。

 そんなライラに伯母はいつも申し訳なさそうな顔をしながらも優しく諭すのだった。