冷徹騎士団長は新妻への独占欲を隠せない

「どこにいても祈っているから。スヴェンの幸せを。姿を変えても、見えなくなっても、いつも月がそばにあるように。どうかあなたに満つる月のご加護があることを――」

 月明かりに照らされたライラの笑顔は、たしかに笑っているのになんだか泣き出しそうに見えた。思わずスヴェンは彼女の腕を掴む。

「いらない」

 はっきりと拒否すれば、ライラは目を白黒させた。

「そんなのはいらないんだ」

 念押しすると、ライラの表情には戸惑いとショックが入り混じる。スヴェンはライラと目を合わせて、さらに畳みかけた。

「祈ってどうする? 願ってどうする? ましてや俺の知らないところで。それでなにが変わるんだ」

 彼らしい言い分だが、今のライラには痛いだけだ。視線を落とし、喉の奥を震わせてライラは声を発した。

「……だって私、もうなにもないから」

『おかしいと思ったんだ。スヴェンが結婚なんて。ましてや孤児院出で身分も後ろ盾もなにもないあなたみたいな女性と』

 ユルゲンの言葉がずっと棘となってライラの心に刺さっている。それは事実だからだ。フューリエンだからライラはスヴェンと結婚する話になった。スヴェンのそばにいられた。

 しかし、本来の自分はユルゲンの言う通り、彼に釣り合うものはなく近づくことすら許されない存在だ。それを今日の迎冬会でも思い知らされた。

 スヴェンの周りには身分ある綺麗な女性がたくさんいて、話しかけるのも高貴な人物ばかりだ。国王陛下の傍に仕え、アードラーという立場もある。