冷徹騎士団長は新妻への独占欲を隠せない

『わかった。聞き入れよう』

 葛藤しているライラに王から声がかかる。意識を戻したライラに思わぬ言葉が続けられた。

『……ただし、ひとつ条件がある』

 初めて城を訪れた際に告げられた台詞と同じものだ。ライラの体に自然と緊張が走った。

 それをほぐすかのように、クラウスは笑った。いつものように含んだ笑みではなく困惑さも混じる優しいものだ。

『ライラ、俺と賭けをしないか?』

 クラウスの言葉を反芻させ、ライラはスヴェンに向き直る。露出した肌に冷たい空気が刺さるが、体に力を入れ自分を奮い立たせる。

『もしもスヴェンがフューリエンではなくなったお前でも見つけられたら、さっきの言葉は自分で伝えてやってほしいんだ』

 スヴェンが自分に気づかなかったら、そのまま彼とは会わずにここを去る。そういう話だった。

 でも残念ながら賭けはライラの負けだ。けれど、どうしてかライラの気持ちは温かかった。

 今度はしっかりと両目でスヴェンを見つめる。ライラからの視線を受け、スヴェンも彼女の肩から手を離した。

 そして、ライラは一歩下がると両側のドレスの生地を手で持ち、慣れない仕草で膝を折った。

「バルシュハイト元帥、今まで本当にありがとうございました。あなたには感謝してもしきれません。だからどうか……」

 そこでライラは言葉を切る。うつむいてかしこまっていた姿勢から背筋を伸ばしスヴェンに笑いかけた。