冷徹騎士団長は新妻への独占欲を隠せない

「やっ」

 抵抗を見せるも力の差は歴然で、あっさりと彼女はスヴェンの前に素顔を晒した。両目共にくっきりとしたエメラルドの瞳がスヴェンを捉える。

 思わず目を奪われると、ライラは顔を背けた。

 最後に会ったときと、瞳の色も髪型も格好さえも違う。けれどスヴェンの目の前の前には、他の誰でもないライラがいた。

「なぜ、あんな場所に? 村に帰ったと……」

 矢継ぎ早に状況を尋ねられ、ライラはおずおずと説明しはじめた。

「こ、これは、その……陛下のご意志で……スヴェンを騙そうとしたわけじゃ……」

 話ながらライラは謁見の間で王に望みを尋ねられたときのやりとりを思い出す。

『スヴェンに……バルシュハイト元帥にお伝えください。あなたには感謝してもしきれない。あなたの幸せを心から願っている、と』

 ライラの口から飛び出した内容に王は目を見張り、わずかに顔を歪めた。

『……それがお前の望みか?』

『はい』

『つまり、スヴェンには会わないまま城を発つと?』

 王の指摘にライラの顔が強張る。本当は直接感謝の言葉を伝え、別れるのが筋だ。しかし今日、彼が城に戻るのは迎冬会が始まる直前だと聞いている。帰ってきてからもきっと忙しいだろう。

 けれど、それは全部建前だ。スヴェンに会うのが今のライラは怖くてたまらない。フューリエンでなくなった自分を見られるのも。

 想いを伝えるどころか、どんな言葉を交わして別れたらいいのかを考えなくてはならないなんて。