冷徹騎士団長は新妻への独占欲を隠せない

「また署名しておけ。処理はこちらでしておく。話は以上だ。迎冬会も間もなく始まる」

 スヴェンはため息をついて、膝を折っていた状態から立ち上がる。そんなスヴェンを心配そうに見つめながらルディガーも腰を上げた。

 そこでクラウスが忘れていたとでも言いたげな雰囲気でスヴェンに声をかける。

「スヴェン、俺の命令はここまでだ。あとはお前が自分で決めろ」

 なにを?と聞き返す気力も今のスヴェンにはない。本当にライラがいなくなった実感も湧かない。

 最後に見たのは穏やかに眠る彼女の寝顔だった。部屋に戻れば、また自分を見つけてあの笑顔で寄ってくる気がした。

 妙な感覚だった。悲しみでも怒りでもない。かといって肩の荷が下りたと安心するわけでもない。まるで心にぽっかりと穴が開いたような……それを喪失感と呼ぶのだと名前さえも出てこない。

 スヴェンやルディガーの迎冬会での主な任務は、王家に関係の深い貴賓を無事に会場まで連れて来ることだった。会場の警護自体は他の団員達もそれぞれの持ち場についている。

 夜の帳が下りてくる頃、迎冬会の幕が開ける。会がはじまれば、スヴェンやルディガーは会場に溶け込み、なにもないよう事の成り行きを見守るだけだ。

 この時間はスヴェンにとっては退屈以外のなにものでもない。

 優雅な音楽が豪華絢爛な大広間に響き、参加者たちが集まってきた。多くは仮面を身につけ素顔を隠す。馬鹿らしい試みだといつもより刺々しく会場を見渡した。