冷徹騎士団長は新妻への独占欲を隠せない

「なんだって!?」

 声をあげたのはルディガーが先だった。迎冬会への貴賓を護衛するため、城を出ていたスヴェンとルディガーが戻ってきたのは、会が間もなく始まる前だった。

 膝をつき、王に報告が上がればそこで思ってもみなかった事実がクラウスの口から告げられた。ライラの瞳の色が戻り、生まれた町に戻るためすでに城を発ったという内容だった。

「そう声を荒げるな。しょうがない、ライラの望んだことだ」

「どうして俺たちが帰ってくるのを待たなかったんだ!」

 いつもは立場をわきまえるルディガーも、このときばかりは感情が抑えきれず乳兄弟としてクラウスに当たる。

 王の側近はいい顔をしていないが、当の本人はさして気にしていない様子で返した。

「しょうがない。冬が本格化する中で、移動するなら早い方がいいと判断したんだ」

「だからって……」

 そこで王の視線が、先ほどからなにも言わないもうひとりの男へ向いた。

「スヴェン、ライラはお前にとくに感謝していた。お前の幸せを願っていると。フューリエンの護衛を兼ねた偽りの結婚生活、ご苦労だったな」

 スヴェンはなにも言わず、表情もいつも通り読めない無愛想なものだった。王を静かに見据えるが、その眼差しはいつになく鋭い。

 王は側近に目配せし、紙を二枚ほど持ってこさせる。そのうちの一枚をひょいっと手に取り、男共の方に紙面を向けた。

「心配しなくてもライラから署名された離縁の手続きに必要な書類は預かっている。これにお前の名前を書けば任務終了だ」

 クラウスは興味なさげにライラのサイン入りの書類に目を通すと、再びスヴェンに視線を戻した。